
厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概況」によると、令和5年1年間の介護・看護による離職率は、計0.9%(男性0.4%、女性1.3%)と男性より女性の方が多く3倍以上となっています。
また介護・看護による離職率の多かった年齢階級を性別で多い順にみると、男性は55 ~ 59 歳(1.6%)、50 ~ 54 歳(1.2%)、女性は50 ~ 54 歳(4.9%)、55 ~ 59 歳(3.4%)と男女ともに50代が最も多くなっています。
出典:厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概況付属統計表3-1 性、年齢階級別にみた離職理由別離職者の割合 令和5年(2023)」
介護休業や介護のための残業免除や時短勤務などの両立支援制度は、育児休業や育児のための両立支援制度のように広く知られていないことが、介護離職の一因となっています。
育児・介護休業法の改正により、2025(令和7)年4月1日から介護離職防止のための雇用環境整備と個別周知・意向確認、40歳等の労働者(以下「社員」という。)へ介護休業及び介護両立支援制度等に関する情報提供が、すべての事業主に義務付けられました。
この記事では、介護離職防止のための雇用環境整備と個別周知・意向確認、40歳等の社員への情報提供の内容など、事業主が必要な対応について詳しく解説します。
2025年4月からすべての事業主に義務付けられた3つの義務とは?
育児・介護休業法の改正により、2025(令和7)年4月1日から
①介護離職防止のための雇用環境整備
②介護離職防止のための個別の周知・意向確認等
③40歳等の社員へ介護休業及び介護両立支援制度等に関する情報提供
が、すべての事業主に義務付けられました。事業主がしなければならない対応について、順に解説します。
「介護離職防止のための雇用環境整備」とは?
2025(令和7)年4月1日から、介護休業と介護両立支援制度等をスムーズに取りやすくするために、すべての事業主は、以下①~④のうち、いずれかを実施しなければなりません。
①介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施
②介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
③自社の労働者への介護休業・介護両立支援制度等の取得事例の収集・提供
④自社の労働者への介護休業・介護両立支援制度等の取得促進に関する方針の周知
「①研修の実施」については、すべての社員への実施が望ましく、少なくとも管理職は、研修を受けたことがある状態にすることが必要です。
介護休業・介護両立支援制度等に関する研修については、こちらをご覧ください。
「②相談体制の整備」については、「相談窓口に相談したが担当者が介護休業や介護両立支援制度等に詳しくなかった」といった形ばかりの相談窓口ではなく、実質的な対応が可能な窓口を設置する必要があります。また、社員に対して相談窓口のことをお知らせし、社員が利用しやすい体制を整備する必要があります。メールアドレスやURLを定めて相談窓口として知らせる方法も可能です。
「③事例の収集・提供」については、自社の介護休業・介護両立支援制度等の取得事例を収集し、その事例を掲載した文書等の配布やイントラネットへの掲載等を行い社員が閲覧できるようにすることが必要です。
「④取得促進に関する方針の周知」については、介護休業等に関する制度・介護休業等の取得の促進に関する事業主の方針を記載したパンフレット等の配付や事業所内掲示板・イントラネット等に掲示などをすることが必要です。
出典:厚生労働省「パンフレット『育児・介護休業法令和6年(2024年)改正内容の解説』」
「親が要介護2の認定を受けた」と申し出た社員に知らせなければならない事とは?
2025(令和7)年4月1日から、介護離職防止のための個別周知・意向確認等が、すべての事業主に義務づけられていました。よって「母親が要介護2の認定を受けた」など、*対象家族になったことを申し出た社員に対して個別に
①介護休業に関する制度、介護両立支援制度等の内容
②介護休業・介護両立支援制度等の申出先
③介護休業給付金に関すること
をお知らせし、介護休業・介護休暇の取得や介護両立支援制度を利用するかどうか、まだ検討中かを確認しなければなりません。
*配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫で、同居の有無は問わない
「①介護休業に関する制度、介護両立支援制度等の内容」については、現在、下記表の休業または両立支援制度があります。
制度・措置名 | 内容 |
介護休業制度 | 要介護状態の対象家族を介護するために対象家族1人について通算93日まで、3回まで分割して休業できる制度 |
介護休暇制度 | 要介護状態の対象家族の介護その他の世話を行う労働者は対象家族1人について1年度に5日まで(対象家族が2人以上の場合は1年度に10日まで)1日または時間単位で休暇が取得できる制度 |
介護のための所定外労働の制限 | 要介護状態の対象家族を介護するため労働者が請求した場合、事業主は所定外労働をさせてはならない |
介護のための時間外労働の制限 | 要介護状態の対象家族を介護するため労働者が請求した場合、事業主は1か月24時間、1年150時間を超える時間外労働をさせてはならない |
介護のための深夜業の制限 | 要介護状態の対象家族を介護するため労働者が請求した場合、事業主は午後10時から午前5時までの間の労働をさせてはならない |
介護のための所定労働時間の短縮措置等の措置 | 事業主は要介護状態の対象家族を介護する労働者に関して以下の①~④のいずれかの制度を作らなければならない ①短時間勤務制度 ②フレックスタイム制度 ③時差出勤制度 ④労働者が利用する介護サービスの費用の助成その他これに準ずる制度 |
「介護休暇」は、対象家族の介護だけでなく、対象家族のために行う家事や買い物、通院の付添い、介護サービスの手続代行、ケアマネジャーなどと打合せの場合などでも利用できます。
「②介護休業・介護両立支援制度等の申出先」の具体例として、人事部や直属の上司などがあげられています。
「③介護休業給付金に関すること」については、雇用保険の被保険者が、要介護状態の対象家族を介護するために介護休業をし、一定の要件を満たしている場合は、介護休業給付金(休業開始時賃金日額の67%相当額)を受給できることなどを説明します。
なお介護休暇や介護両立支援制度等を取得・利用した場合については、現在、公的給付はありません。
介護離職防止のための個別周知・意向確認の方法は、「面談」 「書面交付」 「FAX」 「電子メール等」 のいずれかで行い、「面談」はオンライン面談も可能で、「FAX」 と「電子メール等」は労働者が希望した場合のみ行えます。
出典:厚生労働省「パンフレット『育児・介護休業法令和6年(2024年)改正内容の解説』」
40歳等の社員に情報提供しなければならない内容とは?
2025(令和7)年4月1日から、すべての事業主は、介護に直面する前の早い段階(40歳等の社員)に介護休業及び介護両立支援制度等に関する情報提供を行うことが義務づけられました。
情報提供しなければならない内容は、
① 介護休業に関する制度、介護両立支援制度等
② 介護休業・介護両立支援制度等の申出先
③ 介護休業給付に関すること
と、前項と同じ内容です。
情報提供を行う時期は、
・労働者が40歳に達する日(誕生日の前日)の属する年度(1年間)
・労働者が40歳に達する日の翌日(誕生日)から1年間
のいずれかに行わなければなりません。
なお情報提供の方法は、「面談」 「書面交付」 「FAX」 「電子メール等」 のいずれかで行い、「面談」はオンライン面談も可能で、「FAX」 と「電子メール等」は労働者が希望した場合のみ行えます。
出典:厚生労働省「パンフレット『育児・介護休業法令和6年(2024年)改正内容の解説』」
「入社6か月未満の社員は介護休暇を取れない」会社に必要な対応は?
介護休暇を取得できるのは、要介護状態の家族の介護その他の世話を行う社員(日々雇用を除く)とされていますが、労使協定を締結することで週の所定労働日数が2日以下の社員を介護休暇の取得対象外とすることができます。
2025(令和7)年3月31日までは、労使協定を締結することで「入社6か月未満の社員」も介護休暇の取得対象外とできましたが、現在は撤廃されています。労使協定を締結することで、入社6か月未満の社員を取得対象外にしている場合は、労使協定の変更が必要なためご注意ください。
まとめ
今回の改正で、事業主に必要な対応をまとめると下記表のようになっています。
改正内容 | 2025年4月1日以降 | 施行前 |
介護離職防止のための雇用環境整備(全事業主が対象/義務) | 以下の①~④いずれかの措置を講じなければならない ① 介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施 ② 介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置) ③ 自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供 ④ 自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知 | 左記の義務なし |
介護離職防止のための個別の周知・意向確認 (全事業主が対象/義務) | *対象家族の介護に直面した旨の申出をした労働者に、下記①~③のすべての事項を周知する必要がある。 ①介護休業に関する制度、介護両立支援制度等(制度の内容) ②介護休業・介護両立支援制度等の申出先(例:人事部など) ③介護休業給付金に関すること | 左記の義務なし |
介護に直面する前の早い段階(40歳等)での情報提供 (全事業主が対象/義務) | 【情報提供期間】 下記の①②のいずれか ① 労働者が40歳に達する日(誕生日前日)の属する年度(1年間) ② 労働者が40歳に達する日の翌日(誕生日)から1年間 【情報提供事項】 ① 介護休業に関する制度、介護両立支援制度等(制度の内容) ② 介護休業・介護両立支援制度等の申出先(例:人事部など) ③ 介護休業給付金に関すること | 左記の義務なし |
介護休暇を取得できる労働者の要件緩和 (労使協定の締結をしている事業主が対象) | 労使協定の締結により対象外となる労働者 ①週の所定労働日数が2日以下 右の②を撤廃 | 労使協定の締結により対象外となる労働者 ①週の所定労働日数が2日以下 ②入社6か月未満 |
*配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫で、同居の有無は問わない
出典:厚生労働省リーフレット「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内(令和6年11月作成)」
従業員10人以上の会社等は、今回の改正により、就業規則や育児・介護休業規程の見直しが、必要です。また労使協定の締結により、除外できる労働者を定めている場合は、労使協定の見直しも必要です。2025(令和7)年4月1日からと2025(令和7)年10月1日から育児期の柔軟な働き方を実現するための措置の拡充などが2段階で施行されるため、早急に対応しましょう。
下記の記事もご覧ください。
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