2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)から、働き方改革関連法が始まり、時間外労働の上限規制が適用されました。これまで36協定で定める時間外労働については、厚⽣労働⼤臣の告示によって、上限の基準が定められ罰則規定がありませんでしたが、今回の改正により罰則付きで法律で規定されています。ただしバス・タクシー・ハイヤー・トラック運転者や建設業・医師など一部の事業や業務では、2024年3月末まで適用猶予となっていました。この記事では、時間外労働の上限規制が始まり新たに必要になった労務管理や2024年4月1日から始まったバス・タクシー・ハイヤー・トラック運転者や建設業・医師などの時間外労働の上限規制について詳しく解説します。
働き方改革の取組で多い内容は?
厚生労働省の「労働経済動向調査(令和5年11月)の概況」の11月調査の特別項目「働き方改革の取組」によると、令和5年11月1日現在、長時間労働の是正や多様で柔軟な働き方の実現に「取り組んでいる」と回答した事業所の割合は、調査産業計で81%となっています。
「取り組んでいる」事業所について取組内容(複数回答)をみると、
1位「業務の効率化を進める」 66%
2位「時間外労働の事前申告制」 57%
3位「長時間労働抑制に関する数値目標の設定」 45%
と長時間労働削減に関するものが、上位を占めています。
出典:厚生労働省「労働経済動向調査(令和5年11月)の概況表11」
36協定の締結・届出で残業ができる時間は?
労働基準法第32条で、労働時間は「1日8時間」および「※1週40時間」までとされています。
(法定労働時間)※特別措置対象事業場は、週44時間まで
また労働基準法第35条第1項で、労働者に毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないとされています。(法定休日)
労働者に、残業(法定労働時間を超える労働)や休日出勤(法定休日に労働)をしてもらう場合は、あらかじめ36協定の締結と所轄労働基準監督署への届出が必要です。
ただし36協定の締結・届出をすれば際限なく残業や休日出勤できるわけではありません。36協定の締結・届出がある場合、
■ 臨時的な特別の事情がなければ、原則として残業できる時間は 「1ヵ月45時間まで」、「1年360時間まで」
■ 臨時的に特別な事情があり労使の合意がある場合
・1年間に残業できる時間は「720時間まで」
・月45時間を超えて残業できるのは「年間6か月まで」
とされています。
時間外労働の上限規制とは?新たに必要になった労務管理は?
2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)から、働き方改革関連法が始まり、時間外労働の上限規制が適用されるようになりました。今回の改正で新たに「残業(時間外労働)時間数+法定休日の労働時間数」 という管理が、必要となっています。
36協定の特別条項の有無にかかわらず、1年を通して常に残業(時間外労働)と法定休日の合計労働時間数が、
(1) 「残業(時間外労働)時間数 + 法定休日の労働時間数」≦2~6か月平均すべて月80時間
(2) 「残業(時間外労働)時間数 + 法定休日の労働時間数」<毎月100時間
となるようにしなければなりません。
ただし建設業、自動車運転業、医師など一部の事業・業務は、時間外労働の上限規制の適用が2024年3月末まで猶予、新技術・新商品などの研究・開発業務は、2024年4月以降も適用除外となっています。
2024年4月1日から建設業、自動車運転業、医師などの残業時間は?
2024年4月1日から、建設業や自動車運転業務、医師などにも時間外労働の上限規制が適用されるようになりました。自動⾞運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることなどで、さらに人手不足になることや売り上げの減少などの問題が「2024年問題」と呼ばれています。
なお2024年4月1日からの建設業や自動車運転業務、医師などの時間外労働の上限時間などは、下記表のようになっています。また現在、建設現場で交通誘導警備を主な業務としている労働者は、時間外労働の上限規制が適用猶予されていますが、2024年4月1日から適用されているためご注意ください。
事業・業務 | 猶予期間中の取扱い (2024年3⽉31日まで) | 2024年4⽉1日以降 |
建設事業 | 上限規制は適用されない | ・災害の復旧・復興の事業を除き、上限規制がすべて適用されるようになる。 ・災害の復旧・復興の事業に関しては、時間外労働と休⽇労働の合計が「⽉100時間未満」「2〜6か⽉平均80時間以内」とする規制は適用されない。 |
自動⾞運転の業務 | 上限規制は適用されない | ・特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間となる。 ・時間外労働と休⽇労働の合計が「⽉100時間未満」「2〜6か⽉平均80時間以内」とする規制は適用されない。 ・時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは年6か⽉までとする規制は適用されない。 |
医師 | 上限規制は適用されない | ・医業に従事する医師の一般的(A水準)な上限時間(休日労働含む)は年960時間/月100時間未満(例外的に100時間未満の上限が適用されない場合あり)。 ・地域医療確保暫定特例水準(B・連携B水準)または集中的技能向上水準(C水準)の対象の医師の上限時間(休日労働含む)は年1,860時間/月100時間未満 (例外的に100時間未満の上限が適用されない場合あり) ・特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外・休日労働の上限は最大1,860時間となる。 ・時間外労働と休日労働の合計について「2~6か月平均80時間以内」とする規制は適用されない。 ・時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6か月までとする規制は適用ない。 ・医療法等に追加的健康確保措置に関する定めあり |
⿅児島県及び沖縄県における砂糖製造業 | 時間外労働と休⽇労働の合計について「⽉100時間未満」「2〜6か⽉平均80時間以内」とする規制は適用されない | 上限規制がすべて適用される |
2024年4月1日以降も時間外労働の上限規制が適用されない業務は?
新技術・新商品等の研究開発業務については、2024年4月1日以降も、時間外労働の上限規制の適用が除外されています。なお今回の法改正によって労働安全衛⽣法が改正され、新技術・新商品等の研究開発業務については、1週間当たり40時間を超えて労働した時間が⽉100時間を超えた労働者に対しては、医師の⾯接指導が罰則付きで義務づけられました。事業者は、⾯接指導を⾏った医師の意⾒を勘案し、必要があるときには就業場所の変更や職務内容の変更、有給休暇の付与などの措置を講じなければならないので、ご注意ください。
出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制わかりやすい解説」
人手不足に対応するため65歳以上に定年延長した時の助成金は?
建設業や運送業・タクシー会社・バス会社などでは、人手不足に対応するため「現在60歳で定年後、65歳まで嘱託職員として再雇用しているが、定年年齢を65歳以上に延長したい」というケースが増えています。
65歳以上への定年引上げなど、65歳超の労働者に関する雇用推進助成金は、下記の3つがあります。
65歳以上への定年引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかを実施した事業主に対して助成するコース
(2)65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)
高年齢者向けの雇用管理制度の整備等に係る措置を実施した事業主に対して助成するコース
50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用に転換させた事業主に対して助成を行うコース
出典:厚生労働省「令和6年度65歳超雇用推進助成金について」
また、60歳から64歳までの高年齢労働者の処遇の改善に向けて、就業規則や労働協約の定めるところにより、高年齢労働者に適用される賃金に関する規定または賃金テーブルの増額改定に取り組む事業主に対して「高年齢労働者処遇改善促進助成金」が支給されます。
支給要件や申請書のダウンロードなど詳細は、厚生労働省ホームページをご覧ください。
まとめ
2024年3月末まで、時間外労働の上限規制が、適用猶予されていたバス・タクシー・ハイヤー・トラック運転者や建設業・医師・⿅児島県及び沖縄県における砂糖製造業は、2024年4月1日から適用されている時間外労働の上限規制に対応するように就業規則や賃金規程などの見直しが必要です。またトラック・バス・タクシー運転手の拘束時間や運転時間・連続運転時間などを定めた自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)が一部改正され、2024年4月1日から適用されています。早めに、就業規則や賃金規程などの見直しや変更・作成をしておきましょう。
就業規則や賃金規程の作成・変更・診断については、下記をご覧ください。
2024年4月から適用されたトラック・タクシー・ハイヤー・バス運転手や建設業・医師の時間外労働の上限規制に対応した36協定届の作成や新たに記載が必要になった労働条件の項目を含む雇用契約書や労働条件通知書の作成については、下記をご覧ください。